立山の思い出 雨中のアタック開始

時間ばかりがすぎてゆくなかで、帰りのバスの目処が立ちました。宿舎の立山荘から連絡があり、ある時間までに美女平で待機すると状況次第だけれども、有料道路を先導車付きでゆっくりと下りることができるというのです。これで、立山に取り残される心配はなさそうです。
雨は降り続いていますが、室堂を離れる時刻を決め、行動を始めることにしました。とりあえず、一ノ越を目指します。
室堂ターミナルの屋上に出ると、風雨が強く、すぐにずぶ濡れです。昨日歩いたのと同じ道ですが、降りしきる雨に顔を上げることさえできません。
室堂全体が雨で水かさを増しているようにさえ思えます。ライチョウに出会ったポイントは川があふれ出していて、雪渓の上は何本もの川が流れているようでした。高山植物さえすっかり水の中で、まるで水中花のようです。こういう光景を見たのは、ガイドさんも初めてと驚いておられました。
体はうそのように軽く、昨日の高度順応がうまくいったことを示しています。それでも、先の見えないアタック。こういうことも山にはあるんですね。
2つの雪渓を越えました。雪の上に水が流れ相当に危険です。
3つ目の雪渓は、途中でのぼりになっていて、これを渡ることはできますが、厳しい下りになる帰り道は相当に困難です。雨のため、雪渓もゆるんでいて、確保のための支柱やロープもなかなか効きません。そのうえ、上部での落石があると雪のため、また、雨が雨具をたたく音も激しく、落石の気配に気づかずに大きな事故になるのはしばしばあることです。この雪渓の上は、立山カルデラの外輪山で崩壊しやすい浄土山です。
ガイドさんの足が止まり、教頭先生が最後尾から前に走ります。何ごとか話し合って、それからふりむき、「残念だけど、ここまでです」。アタックは終了しました。限界ですね。子どもを含むツアーでは、これ以上の危険を冒すのは無謀です。安全も登山の大切な要素ですし、もっとも優先されることです。

勇気ある撤退と言うよりは、当然の撤退です。「山の天気は受け入れなくちゃ」教頭先生が自分に言い聞かせるようにつぶやきました。
それでも、何とか行動を続けられないかと、室堂山荘の前の室堂山登山道の分岐点で、ガイドさんと教頭先生が話をしています。一ノ越のような峠の地形でなく、雪渓が少ない室堂山なら登れるかも知れないと、そういう話のようです。
左に折れて再び登山道へ。5分ほど歩いたテラスで立山カルデラから吹き上げた風がここで強く吹き下ろしてたたきつけられるようです。やはり、無理ですね。断念しました。
室堂ターミナルに戻ると、雨具を着こんでいるのですが、下着まで濡れています。服を脱いでもまるで雨の中にいるような感触です。雨具に当たっていた雨の感じが肌に残っているんですね。
みんな、ぐったりと座り込んでおにぎりを食べました。
これも経験の一つですが、厳しい山の現実を教えられた雨の時間でした。
身繕いを整えて、おみやげなどを買いに歩き回りました。
そろそろ、室堂を離れる時間です。